仙台国際日本語学校

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仙台国際日記(ブログ)

『吾輩は  である』#0

2021.04.01

今年の1月から2月にかけて、1クラスのiタイムで新たな取り組みが行われました。
後にその成果物として編まれた冊子の巻末にある「あとがきにかえて」を、少し長いですが引用します。
担当された、講師のS藤先生によるもので、取り組みの全体像や詳細がよくわかるのではないかと思います。


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<授業の様子。1月29日S藤先生撮影>

あとがきにかえて

この活動は一月二十二日・二十九日・二月五日・十二日の四回のⅠタイムの時間で行いました。初回の時間で『声にだすことばえほん 吾輩は猫である』(ほるぷ出版)を読み、人間以外のものから見た世界を考えようという、少々無茶な提示をしました。正直、簡単に言うものの、なかなか難しい活動です。母国語、外国語に関係なく、文章を作る、しかも小説を書くという作業は得意な人もいれば苦手な人もいます。しかも、「自分」の視点で書くのではなく、他のものの立場に立って物事を捉えた小説を書くのですから、なかなかハイレベルだと思います。そして、外国語(日本語)で書くのです。私自身、どのように進められるか少々不安に感じていました。ところが、それを聞いた一クラスの皆さんの表情は明るく、何かピンときたように目をキラキラさせてメモを書いていました。『吾輩は猫である』を一度聞き、自分でも一度読み、私の拙稿『吾輩は金魚である』を読んだだけです。先述した指示以外、ヒントも出していません。メモをのぞくと、犬に猫に雀、烏、鏡、財布、口紅、布マスクまで!多岐にわたっていました。今飼っている金魚しか思いつかなかった私に比べ、皆さんの柔軟な発想力に本当に感心させられました。広がる展開が想像され、私のほうが興奮してしまったかもしれません。

 「おおよその話を考えてくる」という前週の課題をほとんどの学生がしてきてくれたこともあり、次の回は、スムーズに書く作業に移ることができました。この回では、さらに主人公の人物像?を深めようと、性別や性格、趣味、特技などのプロフィールを考えてもらいました。一つ、書く際のポイントとして、「吾輩は...である」で始まる文章の場合、文末表現は「だ・である体」に統一し、かたい表現を用いるよう心がけること、主人公が女性の場合は「わたくしは...でございます」で始め、文末表現は「です・ます体」に統一し、敬語を多く使うように心がけることを提示し、さっそく自分の小説を書き始めてもらいました。二回目の活動終了後に提出された作品は全てがきらきらしていて、続きが読みたくてたまらなくなりました。

 提出してもらった部分を添削して返却し、三回目は最後まで書き終えるという目標のもと、始まりました。皆さん、黙々とひたすら書き進めていました。案に詰まったときは友だち同士で案を出し合ったり、見聞きした表現、文法の授業で習ったようなN1の文型を使ったり、スマホで何度も調べたりしながら一生懸命書き進める様子に、またまた私は感心させられました。中には、「~なかろう」という表現を使っている学生もいたので、どこで知ったのか気になって聞いてみると、「大河ドラマを見ていて気になっていた。(主人公である)猫がそれを言ったら面白いと思って...」とのこと。他にも、"物"が持ち主を「世話してあげている」とか、親友であったり恋人であったりするなど、『吾輩は猫である』における独特の世界観、いえ、それ以上をも取り入れられた作品もありました。「すごい」の一言しかありません。三回目でほぼ話を書き終え、四回目で清書して完成しました。

 修正を加えてしまったことにより、最初のきらきら感、躍動感を損ねてしまったのではないかと私自身の反省が残ります。ですが、最後まで丁寧 に書きあげてくれた皆さん、ありがとうございました。日本語力、文章力だけでなく、授業外の時間の作業があっても嫌がらず、むしろ熱心に取り組んでいた姿勢など、本当にすばらしかったです。

 日本語学校の卒業も近づいてきました。卒業後はそれぞれ新しい道が待っていると思います。ぜひ自信をもって進んでください。皆さんには果てしない可能性があります。何より「がんばれる力」があります。家族や友達と離れ、ホームグラウンドを離れ、初めての地・日本で一からがんばってきた自分の力を信じてください。異なる文化や習慣にも慣れられるしなやかさ、出身国も文化も異なる人と友人になれるコミュニケーション力、身に付けた日本語力、さらに伸ばそうとする向上心、新しいことに目が向けられる好奇心!自分を信じてがんばってください。応援しています! 

S藤 M子


(補足:最終回の5回目の授業では、他の学生の小説も全部読んで感想を分かち合ったそうです。)

ここまで読まれて、学生たちの作品を読みたくならない人はいないはず。
ということで、次回からは私が偏見による独断でセレクトした作品をご紹介して参ります。
お楽しみに。



(瀬戸)

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