仙台国際日本語学校

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仙台国際日記(ブログ)

授業のこぼれ話  #1 そばに育てられた私

2022.05.26

2022年5月26日、とあるクラスの文法の授業にて。
テキストは『短期集中 初級日本語文法総まとめ ポイント20
初級を終えた学習者向けの、初級の文法項目を短時間で集中的に整理する一冊だ。

今日はその第18課、受身形(=される、見られる、押される等)の復習。
P110の「問題2」を解くように指示。
数分語、学生たちはおおよそ解き終わった様子である。

「では〇〇さん、『1番』をお願します」と私。
「はい、『わたしは、そばに育てられました』」

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                 <「そばに育てられた」とは?>

...何が起こったかお分かりいただけただろうか?
説明しよう。この問題2は(日本語としてはやや不自然な)能動文を受動文に変えるもの。
その「1番」に書かれていた能動文は「祖母がわたしを育てました」だ。
つまり彼女は「祖母」を「蕎麦」と間違って答えてしまったわけである。

しかしこの「そぼ/そば問題」は、彼女だけに見られる稀な現象では決してない。
これまでの教師生活で、平均すると年に2度ほどは目に/耳にしてきた。気がする。
ほかの先生方はいかがだろうか?もしかしたら、もっとずっと多い先生もいらっしゃるかもしれない。

私はこの問題を、これまでは「ま~、似ているからね」という粗い粒度で済ませてきた。
だがこれは、よく考えると、日本語の構造が偶然生んだ、学習者が間違いやすい類似ではないだろうか。

日本語教育や言語学をかじった人であれば「ミニマル・ペア」というものをご存じであろう。
手元の本によれば、それは音声上「似ている語で、一部だけが違っているぺア(組)のこと」とある。
例としては「アキ(秋)」と「エキ(駅)」、「カタ(肩)」と「カサ(傘)」などが挙げられている。
「ソボ(祖母)」と「ソバ(蕎麦)」もこの「ペア」に、当然該当する。
しかし問題は、それだけではないことに気付いた。


この二つのことばは、表記の上でも「ミニマル・ペア」なのである。
「祖母」「蕎麦」をひらがなに開くと「そぼ」「そば」となる。
その違いは、たった線一本!
このテキストには漢字にルビが振られており、それを頼りにしている者も少なくない。
それは、間違いやすいよね。
つまり、正しく読めていても言い間違うこともあれば、誤読が原因のこともあるわけである。
もうこうなると、学生の注意力や視力ではなく、日本語の側に非があるようにさえ思えてしまう。
今後は「祖母と蕎麦」が二重のミニマル・ペアであり、そこに落とし穴があることを踏まえ授業に臨める。
今まで以上に、相当この誤用に寛容になれる気がする。


ただ彼女が「蕎麦ばかり食べて育った」という意味で「そばに育てられた」と言った可能性は否定できない。


(瀬戸)

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